出張から帰ってきた東吾を、空港まで迎えに行った。
 ゲートを抜けて私の姿を認めると、立ち止まって目を丸くする。

「おかえり」
「……ただいま」

 後ろから歩いてきた人と肩がぶつかって、ようやく我に返ったのか、その人に失礼、と軽く頭を下げてからこちらへ向かってくる。

「どうした、迎えなんて」
「たまにはいいかなー、って」

 へへ、と照れ笑いが滲んで、東吾の隣に並ぶと荷物を一つ、引き受ける。空いた手が伸びてきて、私の手を握った。

 どこかで夕食を食べて帰ろうかと提案したら、簡単でいいから家で食べたい、と言うので、一度荷物を置いてから近所のスーパーに買い出しに向かう。
 東吾が無性に焼きそばが食べたいと言ったので、出来合いのお惣菜とサラダと三食百円の焼きそばという、出張帰りの社長の夕食とは思えない質素な食卓になった。缶ビール片手にだらんと寛いでいる姿は、十分満足そうだったけど。


 さすがに疲れているようで、食事を終えると早くもあくびをしだしたので、早々に眠る準備をする。東吾と交代でシャワーを浴びてリビングに戻ると、東吾はソファで書類を眺めていた。まだ仕事してる、と半分呆れて、半分は東吾らしいと思いながら隣に座る。

「どうだった? 製造ライン、使えそう?」
「手ごたえはあった。改良は必要だけど、基本的な部分は流用できると思う」

 今、社をあげて力を入れているのが、新商品の開発だ。従来の主力商品がコストの面でも品質の面でも他社に後れを取り始めていて、品質改良は第一優先の課題だったはずなのに、ほとんど進んでいなかった。社内改革が始まってようやく日の目を見だした開発部が、意気揚々と励んでいるところ。