「あんなに素敵な男性に仕立ててくれて、お礼を申し上げたいくらい。今の彼なら文句ないわ。理想の伴侶として完璧」
自信に満ち溢れた目で、伴侶としての東吾を語る。
この人も、誰かと付き合うのに、好き、だなんて稚拙な感情は必要としない人なんだろう。重要なのは、梶浦雅という人間の隣に立てるだけの条件を備えているか否か。
「私も父も、上條グループにではなく、上條東吾という人間に期待をしてる。銀行という立場からもできる限りサポートするつもりよ。彼の隣でいずれは上條を動かしていくのかと思うと、わくわくするわ」
雅さんの……おそらくは梶浦頭取の頭の中にも、兄の真人さんが後を継ぐという考えはさらさらないらしい。東吾の意思という存在すら、彼らの中にあるのかどうか。
口の渇きを感じて、紅茶を口に含む。残念ながら、中身はすでに冷めてしまっていた。
「誤解しないで欲しいんだけど、あなたに今すぐ東吾さんと別れて欲しいとか、そんなことを言うつもりは全くないわ。私は私で東吾さんに選んでもらうために全力を尽くし、あなたはあなたの思う通りに振る舞ってもらえればそれでいい。最終的に選ぶのは東吾さんだもの」
自信と傲慢、紙一重の笑みを浮かべて、雅さんが片手を差し出した。
「お互い、正々堂々、戦いましょ」
そっとその手を握ると、思いがけない強い力で握り返された。
冷めた紅茶の渋い苦みが、口の中でゆっくりと広がっていた。
