「父が早くから東吾さんに目をかけていたの。何かのパーティーで引き合わせられたのだけど、その時の印象、実はよくなかったのよね。誰に対しても同じ態度っていうか、なんて言えばいいかしら、真剣に相対されていない感じ?」
お嬢様のくせに鋭いな、と思った。以前の東吾の「女なんてみんなこんなもん」的考えを一度会っただけで見抜くとは。
「その時はこんな人まっぴらだわ、と思ってすぐにお父様に釘を刺したわ。お父様は残念そうだったけど、私の性格をよくご存じだから。だから今回は、そんな意図は全くなくて、本当に偶然にお会いしただけだったんだけど」
雅さんはカップを手に取ると、何かを思い返すように目を細める。
「雰囲気が全く違ってた。余裕があって、さり気ないけどこちらへの気遣いが溢れていて。一体あれから何が起こったのかしらと思っていたけど」
すっと視線を私に戻すといたずらめいた笑みを浮かべる。
「あなたの影響なんですってね?」
何が言いたいのかわからなかった。ただの秘書ごときが図に乗るなと言いたいのならもっと不機嫌な態度になるだろうに、目の前のお嬢様は楽しそうに微笑んでいる。
「……そんな、私の影響なんて、滅相もない」
「謙遜しなくてもいいわよ。私、あなたに感謝してるんだから」
温かいうちにいかが、とスコーンの入ったバスケットを差し出され、食欲なんて全然湧かなかったけど、仕方なく一つ手に取った。手で割るとふんわりいい香りが漂い、はちみつをかけて口に運ぶと、あっさりしているのにコクがあるという摩訶不思議な甘さが口の中に広がる。なんだこれ、すっごいおいしい。
