さすがは老舗ホテル、色とりどりのスイーツやサンドイッチ、温料理がスタンドに美しく並び、焼きたてのスコーンからはほかほかと湯気が上っている。スープに口をつけると、濃厚なチーズの風味のあとに奥深い甘みを感じた。緑色してるけど、なんだろ、これ。

「いろんなところのお茶をいただいたけど、日本ではここが一番。私、口に入れるものは絶対妥協したくないの」

 食べ物だけではなく、身に着けるものでもなんでも、自分に関わるものにはこだわるタイプなんだろう。選び抜いたものしか、そばに寄せ付けたくないタイプ。

 つやつやと光る真っすぐな黒髪、溌溂とした大きな目、すっきりとまとまった口と鼻。気品を漂わせながらも活発とした印象を与える美貌は、それに相応しい上質なメイクと衣装に彩られている。こっちだって一応気合入れておしゃれしてきたわけだけど、雅さんに比べるといかにも頑張りました感が漏れ出ていて、なんだか滑稽だ。

「自分の人生も、私は絶対に妥協しない。ある程度レールに乗るのは仕方がないけれど、自分で選ぶべきものは自分の目で見て決める」

 優雅な仕草でカップを口元に運んで、にっこりと微笑んだ。

「もちろん、生涯の伴侶もね」

 その目の射るような強さに当てられて、自然と目線が下がる。

「私、実は以前にも東吾さんにお会いしたことがあるのよ。東吾さんは覚えていらっしゃらなかったけれど」

 手が止まっていた私にどうぞ召し上がって、と促しながら、自分はナイフとフォークで器用にサンドイッチを取り分けていた。サンドイッチって手で食べるもんじゃなかったのか。