指定されたのは、老舗ホテルのラウンジだった。家に来ていただいてもいいのだけど、という提案は即座に断った。そんな場所で正気を保っていられる自信はない。

 名前を名乗るとすぐに個室に通される。お嬢様はすでに中でお待ちだった。アンティークの上質なインテリアの中に違和感なく溶け込んで寛ぐさまは、さすが育ちの良さを感じさせる。
 促されて雅さんの向かいに座ると、すぐにアフタヌーンティーのスタンドが運ばれて来た。

「そう硬くならないで。今日はお仕事じゃないんだから、どうぞお寛ぎになって」

 くすくす笑いながら、控えていたバトラーに目配せする。お茶の種類がずらりと並んだメニューを渡されて、すぐに迷うのを諦めた私は、一番先頭に書いてあったオリジナルブレンドを頼んだ。

「里香さん、って呼んでいいかしら。私のことも、下の名前で呼んでくださいね」
「わかりました。雅、さん」
「東吾さんからいろいろお聞きしましたの。とっても優秀なんですって?」

 この人から優秀、なんて言われると当てこすりのように感じる。いろいろ、とは一体何を聞いたのだろうか。東吾が私の話題を好んで出すとは思えないけど。

 ふわりと紅茶のいい香りが漂ってきた。それぞれの前にカップを置くと、バトラーはまた部屋の片隅に引っ込み、影のように気配を消す。

 いただきましょう、と屈託なく目を輝かせて、雅さんはアミューズを口に運ぶ。