掌を返すように自分の仕事に戻った茉奈ちゃんに呆れつつ、私も自分のデスクの荷物の最終確認をする。
秘書のデスクは基本的にはこの秘書室にあるのだけど、社長秘書だけは例外で社長室の隣にあるため、明日からの業務に備えて私もお引越ししなければならない。
よいしょ、と荷物の入った段ボールを持ち上げると、すぐにふわっと軽くなった。いつの間にか横に来ていた神崎室長が、代わりに持ってくれている。
「手伝いましょう」
すたすたと歩き始める室長の後ろを、細々とした荷物が入った紙袋を持って慌てて追いかける。
「ありがとうございます。すみません、持たせてしまって」
「いえいえ。このくらいは軽いものですよ」
線が細く見える室長だけど、全く重さを感じさせない。やっぱり男の人だなあと思う。
「どうでしたか、社長へのご挨拶は」
私が隣に追いつくと、室長が尋ねてきた。
神崎室長は上條ケミカルで社長秘書を務めた後、まだ秘書制度が整っていなかったわが社の秘書室を確立するためにやってきた、いわば秘書のエリートだ。
まだ三十五歳と若いのにいろんなことに精通していて、みんなから尊敬されている。その物腰の柔らかさとは裏腹に話す言葉ははっきりとしていて、たまに直球過ぎてぐさっと心に刺さったりするけれど、部下の話には真摯に耳を傾けてくれるので、相談もしやすい。
隣を歩きながら、口から愚痴がこぼれ出る。
