「俺は結婚するなら里香とがいい」


 また唐突に、なのにまるで当然の流れみたいに言うので、咄嗟に反応できなかった。

「まだそんな話、するつもりなかったけど。ずっと一緒にいるなら里香がいい」
「え、っと」
「里香は嫌?」
「嫌なわけないけど」
「まだ考えられないか」

 東吾の口から結婚なんて言葉が出てくると思ってなくて、私はただ戸惑うばかりだった。
 
 そんなふうに思ってくれているのはすごく嬉しい、嬉しいのに、純粋に喜ぶだけではいられない自分がいる。

「私の家、平凡な一般家庭だよ? 父親はサラリーマンで」
「結婚するのにそれ重要?」
「東吾には重要でしょ」
「結婚相手に仕事上の利益を求めてる時点で経営者として情けないだろ。俺は自分の才覚だけでのし上がっていくんだよ」

 ふふんと不遜に鼻で笑って、それから優しく、私に微笑む。


「俺はそう思ってるってこと、伝えたかったんだ。まだ真剣に考えなくていいけど、頭の片隅に少しだけ、留めて置いてくれると嬉しい」


 うん、とただ頷いて、抱き着き返すことしか、今の私にはできなかった。