新年度が始まって、人も会社も新たに動きだした、ある日のこと。

 不意の来客を告げると、東吾は不思議そうに首を捻った。

「東京国際銀行の、梶浦(かじうら)頭取?」
「はい。確かにそう名乗ってらっしゃいますが」
「アポは無かったよな?」
「先方もそこは恐縮されてます。なんでも近くでご用事があって、ついでにお寄りになったとか。手が空いてなければすぐに帰ると仰っているようですが」
「次の予定は?」
「四時から会議です。一時間ほどなら問題ありません」
「お通ししろ。失礼のないように」

 すぐに受付に連絡を入れる。案内するように指示して、エレベーターホールに向かった。

 それにしても、東京国際銀行の頭取が、一体何の用だろう。うちとは取引はないはずだ。先日、経団連主催のレセプションでご挨拶はしていたようだけど、当たり障りのないものだったように思う。現に東吾も、何故頭取が訪ねて来たのか、心当たりは全くない素振りだった。

 待ち構えていると、表示が上昇してきて、ピン、という音とともに扉が開いた。腰を折って待っていると、案内に出てくれた秘書課の職員に続いて、足音が二人分、箱から出てきた。

 頭を上げた私の目に映ったのは、見覚えのある温厚な面立ちの壮年の男性と、もう一人。

 ぱっちりとした目が印象的な、華やかな笑顔を浮かべた、若く綺麗な女性だった。