季節は一巡して、また冷たい風が身を切るようになった。窓の外を流れていく街の景色は、年末の華やぎを纏い始めている。

 そのまま家に帰る気にはなれなくて、少し資料に目を通しておこうと社に車を走らせる。週末のはずなのに、見上げた窓のそこここから灯りが漏れていて、社員たちの奮闘に頭が下がる思いがした。自社ながら、若い人材たちの頑張りは、誰に対しても誇れるものがある。

 少し立ち止まって思考に沈んでいると、どこからか視線を感じた。その元を辿るように顔を巡らすと、エントランスから出てきた男が一人、こちらを窺っていた。

 目が合うと、弾かれた様に近づいてくる。

「休日も出勤か。ご苦労様」
「いえ。社長も。お疲れ様です」

 真木健一は、何度も酒を酌み交わしているおかげか、一社員の割にはそこまでへりくだった態度を取ってこない。彼に対しては気が楽で、おまけに優秀なので、なにかと頼ってしまっている。

 真木は何か言いかけたようだが、すぐに口を閉じた。迷っているようだったので、目線で促すと、意を決したように話し始める。

「昨日、佐倉を見送ってきました。実家に帰るそうで」
「……そうか」

 初めて聞いた話だった。ずっと東京に残って次の就職先を探すものだと思っていた。彼女くらい優秀ならすぐに次が見つかるだろうし、もし難航するようなら、神崎がどこか紹介するつもりだと言っていたのに。

 確か、実家は北陸のほうだと言っていた。自然ばっかりでなんにもないところだと笑っていたが、そんな場所で彼女の能力が発揮できるのだろうか。