「実は、ですね、私……ものっすごく、その、久しぶりでして」
「……」
「就職してすぐに別れて以来、彼氏もいなくて。経験人数も、その別れた彼氏とだけで……」
「……」
「だから、あんまり……満足していただける自信がありません……」

 最後は蚊の鳴くような声でフェードアウトする。無言の社長がどんな顔をしてるのか怖くて、そっちを向けない。

「お前は……仕事してない時は意外と見掛け倒しだな」

 ずきーんと来た。全く以ってその通りだから反論できない。

「悪い。今の言い方は良くなかった。謝る」

 社長がこちらに向き直るのが分かった。何かを考えるように、少し間が空く。

「俺は別に、久しぶりだろうが慣れてなかろうが、どうでもいい」

「社長……」

「しゃちょー?」

 少し呆れ気味の声で社長が返す。

「どっちかというとそっちの方が問題だな。お前は、俺にとっての何だ?」

「何って」

「秘書とか言うなよ。笑えない」

 何って。何って、それは、その。


「恋人だろ?」


 ぶわりと顔に血が上る。やばい、すごい嬉しい。

「とりあえず社長って呼ぶのはやめろ。敬語も禁止。ちゃんと名前で呼ぶこと。はい、どうぞ」

「え、えと、その、あの……」

 そんないきなり、名前で呼べなんて言われても、心の準備ができてない。