社長はすでにシャンパンを開けて、優雅に寛いでいた。私と違ってこの部屋にも違和感なく馴染み、圧倒的な存在感を放っている。
「お前も飲む?」
「はい。いただきます」
手慣れた仕草でシャンパンを注ぎ、渡してくれる。
グラスを受け取った私が、結局またソファの端っこに位置取ると、呆れた顔を向けられた。
「遠くね?」
ですよね。
ずりずりと、身体一つ分、近づく。
「……」
無言の催促。もう一つ分近づくけど、だめ、これが限界。これ以上は緊張する。
社長は微妙に空いた空間を何とも言えない顔で眺めていたけど、まあいっか、と呟いて、グラスを掲げた。
「改めて。乾杯」
カツン、と軽くグラスを触れ合わせる。シャンパンがしゅわしゅわと泡立ちながら喉元を下りていって、少し緊張が和らいだ。
社長の手が伸びてきて、おろしていた髪に触れた。すぐに緊張が戻ってきて、肩に力が入る。
社長の体が空いた隙間を埋めるように近づいてくる。腕が私を包み込むように回っていき、頭越しに息遣いが感じられるまで抱き寄せられたところで、緊張がマックスに達した。
「あのっ」
「ハイ」
社長がすっと身を離す。
「言いたいことがあるならどうぞ。できる限り誠実に対処します」
面倒がられるかと思ったけど、社長は嫌な顔はせず、むしろ優しく待ってくれた。それに背中を押されて、思い切って打ち明ける。