「うわ、早く、早く出て!」

 慌てて噴水から引っ張り出すも、後の祭り。社長は全身びしょ濡れで、十二月の夜空の下で、髪から水を滴らせている。

「時間が来たら、動き出す仕組みみたいですね……」

 並んだ噴水から一斉に水が流れて、水面から電飾がキラキラと輝く様は、とても綺麗だったけど。

 お互いの姿を見合って、同時に吹きだした。

「社長、すごい恰好」
「お前も、ひどい顔してるぞ」

 くすくすひとしきり笑いあって、ふっと笑いが途切れる。
 優しい目をした社長が、今度こそ、私の体を引き寄せて、顔を近づけてきた。社長の髪から滴った雫が、頬に落ちる。

「冷たい」
「ちょっとぐらい我慢しろよ」

 そっと唇が重なった。柔らかな感触が心地よくて、触れ合う場所から私と社長の境目が分からなくなるくらい、溶け合っていく。

 社長の動きに誘われて、少し口を開けた。キスが深くなる、そんな予感を感じた時……。

「へっくしゅ」

 社長が顔を背けてくしゃみをした。鼻をこすりながらそっぽをむく。

「今日はしまんねえなあ」

 照れたような、その表情も愛おしくて。

「戻りましょうか」

 笑いながら言うと、社長も少しおどけた顔で言う。

「ホテルでいいの?」
「はい」

 またくすくす笑いながら、差し出された手を取った。
 今度は二人、隣に並んで、噴水の光に明るく照らされながら、手を繋いで歩いて戻る。