最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~


 思わずばんっと立ち上がる。椅子がけたたましい音を立てて倒れたけど、そんなの気にしちゃいられない。

「帰ります」

 呆気に取られたように目を丸くする社長を一瞥して、さっさとその場から立ち去る。
 
 個室の扉を開けると、心配そうな顔をしたコンシェルジュが控えていた。帰ると一言言い置いて、戸惑うコンシェルジュを置き去りにして一目散にエレベーターにダッシュする。

「おい、ちょっと待てっ……」

 遠く後ろから社長の声が聞こえてきたけど、構うものか。ちょうどよく止まっていたエレベーターに乗り込むと閉のボタンを連打して、社長が来る前に扉を閉めることに成功した。

 ピカピカ光るクリスマスツリーに別れを告げて、一人速足でホテルから出る。
 コートを着ていないことも、財布も携帯も着替えたときに車に置いてきたことも気付いていたけど、とにかくここから離れたかった。すぐに足が痛くなってきて、履きなれないミュウミュウを心底恨めしいと思う。

 ホテルから真っすぐ進んで、噴水が並ぶ並木道をずんずん歩く。噴水の水は止まったまま、辺りはさっきと打って変わって控えめな街灯が灯るだけ。

 社長はすぐに追いついた。これで放っておかれたらそれはそれでむかつくけど、追ってこられても胸のむかむかは収まらない。