「満足できた?」
一足先に食べ終わった社長が、ゆったりとした声音で聞いてくる。
「はい。もうお腹いっぱいです。とってもおいしかった」
「それはよかった」
微笑むその姿にまた夢の世界に引き込まれそうになる。
「俺はまだちょっと飲み足りないけど。まあ、運ばせればいいか」
ちらりと腕時計を確認してから、当然のような顔をして言った。
「上に部屋を取ってある。行こうか」
来た。この上はもう最上階しかない。
スイートルームと麗しい笑顔の誘惑に、別に一夜限りの遊びでもいいんじゃないかと流されてしまいそうな自分を叱咤して、ぐっとお腹に力を込める。
「一つ、お聞きしたいのですが。社長は、その、私のことをどうお考えですか?」
「どう、って?」
不思議そうに問いかけてくる視線に負けそうになるけれど、ここで引いたら絶対後悔する。
どんな簡単な一言でもいい。私との今後のことを、きちんと考えていることがわかるような言葉を聞きたい。せめて、私のことをどう思っているか、それだけでも聞くことができれば。
「その。私のことを、その……」
「うん?」
自然と顔が俯いていく。それでも勇気を振り絞って、震えそうになる声で訊いた。
「好き、ですか……?」
言った。言ってしまった。
恥ずかしくてそのまま目を閉じる。
そんな私の耳に聞こえてきたのは、社長の妙に冷静な声だった。
「好きって。ガキじゃあるまいし」
その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中でなにかがぷっちーんと切れる音がした。
