最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~


 だけど、食事が進むにつれ、次第に心の片隅に現実が顔をのぞかせてきた。

 社長は今、一体どんな気持ちでいるのか。私をどんな相手と捉えているのか。一度その考えが浮かび上がると、どんどん不安な気持ちが芽生えていった。

 社長がいつも相手にしているご令嬢たちならば、この夢の空間を素直に喜んで楽しめばいいだけだろう。その流れに乗って体の関係を楽しんだって、痛手を被ることはない。

 でも私は秘書である。これからもずっと相棒として仕事をしていきたいのだ。そんな相手と生半可な覚悟で関係を持つなんて以ての外だし、なにより私にもプライドがある。自分のことを真剣に考えてくれる人以外と、そんな関係になりたくない。

 ちょっと一度冷静になろうと、食事の終盤になってお手洗いに立った。鏡に映る自分は赤みを帯びた頬に潤んだ目と、もういろいろばっちりな状態に仕上がっている。
 これはまずい、流されるなよと、自分に言い聞かせながら深呼吸した。もし、なんの決定的な言葉もなく、部屋になだれ込むような事態になったら、きっぱりと断らねば。

 少し落ち着いたところで席に戻ると、すぐにデセールが運ばれてくる。お腹はもういっぱいだったけど、このレストランのスペシャリテだというほろ苦いチョコレートを使ったケーキは、添えられたジェラートやフルーツと相まってこの世のものとは思えない美味しさだった。ぺろりと平らげて、食後の紅茶まで堪能する。