ろうそくと線香に火を灯すと、社長が静かに手を合わせた。私もそれに倣って、そっと手を合わせる。お墓参りだと知っていたら、きちんと数珠を持ってきたのに。

 社長は長いこと、目を閉じて祈っていた。お墓の中のお母さまと、どんな話をしているのだろうか。

 その横顔はいつにも増して静謐で、そして美しかった。

 目元を縁取る長い睫毛に、夕陽が色濃く影を落とす。
 茜色の光が墓地全体を照らしていた。ゆっくりと目を開けた社長の前髪を、風が揺らす。いつの間にか季節は秋に変わっていて、身を刺す風は冷たい。


「ありがとうございます。連れてきていただいて」


 自然と口から滑り落ちていた言葉を、社長は意外そうに聞く。

「迷惑だっただろ。いきなり連れてこられて」
「いえ。とても」

 社長にとってはただの気まぐれだったかもしれない。お母さまが好きだった花を見つけて、ただ気分が盛り上がっただけかもしれない。私を連れて来たことに、深い意味はないのかもしれないけど。


「とても。嬉しいです」


 この人を、全力で支えたい、と。強く、そう思った。