「佐倉さん」
「はいっ」

 上擦った声で返事をする私に、社長は淡々と言いつけた。

「社長室の中に、デスクを用意しろ。とりあえず簡易的にでいいから、君のワークスペースを整えて」
「えっと、それは」
「今のままじゃ効率が悪い。同一室内にいた方が何かと便利だ。俺は面倒という言葉が大嫌いだ」

 そう言い放ち、自ら総務に電話して手配してしまった。反対する暇もなく、ばたばたとデスクが運び込まれ、あれよあれよと作業スペースが作られていく。その日の昼には一通りの仕事がこなせる環境が整えられていて、総務部の本気を見たような気がした。

 満足そうな社長に思わず声をかける。

「あの。社長はお嫌ではないんでしょうか」
「なにがだ」
「以前、秘書というものにいい感情はお持ちでないとおっしゃっていたでしょう? その秘書と同じ空間で執務をなさる、というのはストレスではないかと」

 社長は束の間考えると、あっさりと答える。

「嫌ではないな」

 考えるように言葉を選びながら続ける。

「君は秘書というよりも、感覚としては同僚と言うか……なんて言えばいいかな。相棒、みたいな」
「相棒」
「頼りになるしよく気が付く。任せても大丈夫という安心感がある。それに、話していて時々はっとするような意見を言う時がある。細やかな目線というんだろうか、そんな考え方もあるんだなと気付かされる」
「それは、あの……ありがとう、ございます」