お疲れさまでした、という言葉とともに花束が渡されて、拍手が沸き起こる。

 最後の一日も慌ただしく過ぎて、あっという間に退勤時間になった。
 いつも各々の上司について部屋を空けることが多い秘書室の面々も、今日ばかりは私を送り出すために、みんな集まってくれた。たくさん迷惑をかけて、励ましあって笑いあって、いろんなことを教えてくれた、愛すべき仲間たち。辛いこともいっぱいあったけど、私はここで働けて、本当に良かったと思う。

「本当に辞めるんですか? いなくなっちゃうんですか? 里香(りか)さん本当に今日が最後?」

 一年後輩の橘茉奈(たちばなまな)が、涙目になりながら私の袖を引っ張る。一番年が近くて、プライベートでもいろんな話をした、可愛い後輩だ。

「絶対無理です、私には無理です、社長の秘書なんて絶対ムリ」

 引き継ぐべき事項は全て申し送りをして、確認に確認を重ねたにも関わらず、茉奈ちゃんの表情は一向に晴れない。

「だーいじょうぶだって。茉奈ちゃんならすぐ慣れるよ」
「慣れるまでに私の心が折れます。ああムリ、絶対ムリ」

 両手で頬を抑えながら、ぶるぶる小刻みに首を振る。