最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~


 あらかた掃除を終えたところで社長が出勤してきた。今日はやけにゆっくりだなと思いながら挨拶をして退出しようとすると、椅子に座った社長から声がかかる。

「佐倉さん」
「はい?」
「悪いがお茶を淹れてくれないか?」

 これまた珍しい頼み事だった。というか、来客時以外でお茶を頼まれたことなんて一度もない。初日に気を利かせたつもりで淹れていったら、そんなことはしなくていいと断られて以来だ。

 驚きながらもすぐに秘書室にある給湯スペースに向かって、いつも以上に丁寧にお茶を淹れる。心がけているのはきっちり手順を守るということだけなのだけど、私が淹れるお茶は意外と評判がいい。

 社長室に戻ると、すでにパソコンに向かい始めた社長が、ゴホゴホと咳こんでいるところだった。

「もしかして、お風邪ですか?」

 湯飲みを置きながら様子を窺うと、心なしか顔色が悪い気がする。

「いや。少し喉が痛むだけだ。乾燥したんだろう」
「良ければ加湿器をお持ちして……」
「必要ない」

 私の提案をばっさり拒否して、もう出ていけオーラを漂わせる。ああそうですかと早々に部屋を出ると、扉を閉める直前に、辛うじてありがとうの一言はいただけた。

 喉が痛む程度で収まればいいけど……。

 私の心配を他所に、その日も一日社長はバリバリ働いていた。私が退勤する時も特に変わりはなかったので、取り越し苦労だったかと胸を撫でおろした、その翌日。

 掃除を終えて本来の出勤時間になっても、社長の姿が現れない。今日は朝一で会議があったはずだ。いつも会議の日は早く出勤してくるのに、一体どうしたというのか。