「え! 本物!?」
「偽物のわけあるか!」
「ごめん! え、でも、なんでこんなところにこんな朝っぱらに」
「新幹線が止まったんだよ! 夜じゅう閉じ込められてさみーし隣のオヤジは酒くせーし、こっちの計画丸潰れだ。なんでこんなに雪降ってんだよ!」

 そんなこと私に怒られても。

 なんだかえらくご立腹の東吾が、あーくそ、と悪態をつきながら、まだ事態を把握していない私を強引に抱き寄せた。

「え、な、」
「迎えに来た」
「は?」
「俺、上條やめるから」

 閉じ込められた腕の中は東吾の体温がダイレクトに伝わってきて、耳元にずっと聞きたかった声が響いて、とんでもないこと言ってる気がするのに東吾は淡々としてて、もう、頭の中はぐちゃぐちゃだった。

「……何言ってんのかわかんない」
「全部捨てて里香を選ぶって言ってんの」

 ぎゅうっとさらに強く抱きしめられて、胸の鼓動が聞こえてきて、それがいつもより少し早い気がして、私はなんだか泣きたくなった。

「東吾はそれでいいの……?」
「随分回り道したけどな。今の俺の周りにあるもの一回全部剥ぎ取って、どれか一個選べって言われたらやっぱり里香だ」

 ぽん、と一度優しく頭に手を置いてから、そっと私の体を引き剥がす。