よしっと気合の掛け声を入れて、眼前の雪の壁から突き崩していく。
 とりあえず通路の確保をとまっすぐ掘り進めていくけれど、雪かきなんて随分久しぶりで、雪特有のずっしりとした重みにすぐに腕が悲鳴を上げ始めた。さっきまで凍えていた体があっという間に熱を持って、マフラーなんて早々に取っ払う。

 駐車場の半分までたどり着いたところで、やる気メーターはすでに底辺まで落ちていた。どうせすぐに弟と父の援軍がやってくるだろうし、と頭の中を切り替えて、とりあえず頑張ってるふりに勤しむことにした。

 家から少し出たところの大通りには早々に除雪車が入っていて、一応は道肌が見えているが、そこから一歩入った路地はまだ雪に埋もれたままだ。そのうちの一本にタクシーが入っていくのを遠目に見て、あーあかわいそうとちらっと思う。父が車を出す前に家の前も除雪してもらえればいいけれど、はまったら抜け出すのにまた一苦労だ。

 さっきまでの半分の量の雪をすくっては、とろとろと敷地の隅まで運んでいく。筋肉に消費されていた酸素が脳に回ったことで、知らず知らず、思考が彼のもとへ飛んでいく。

 去年のクリスマスは、よく晴れていた。東京は、今年も晴れだろうか。


 昨晩彼は、あの美しい婚約者とともに過ごしたのだろうか。


 今頃、あの声で、彼女の名前を呼んでいるのだろうか。