どうせ顔を洗うだけだからと、台所の水道を使った。凍り付きそうな冷たさにぼけっとしていた意識が覚醒する。窓の外を覗くと、予報通りの寒波のせいで昨日一晩で雪が膝上くらいまで積もっていた。父のものと弟のものと、二台並んだ車は真っ白な塊になっている。その気になれば徒歩で出勤できる弟はともかく、父の車は発掘してやらねばならないが、相当骨が折れそうだ。

 嫌な予感に囚われて、部屋で寝直そうとこっそりリビングから出ていこうとする後ろから、母の声が飛んでくる。

「里香、ちょっと雪かきしてよ」
「ええーやだよ」
「何言ってんのよあんた、仕事もしてないのに。どうせ昼間はごろごろしてるんでしょ。お父さんたちが仕事に行ったら寝てていいから、こんな時くらい働きなさい」

 働かざるもの食うべからず、と言われてしまえば、まだしばらく実家に厄介になる予定の身分としては断れない。

 連日摂取し続けるカロリーが少しでも消費できるかと無理やり前向きに考えて、部屋に戻って完全防寒の服装に着替える。
 大きなスコップを手に玄関の扉を開けると、たちまち顔面に冷気が襲ってきて、ぐるぐるに巻いたマフラーの中に埋めた。東京にいれば滅多にお目にかかれない雪の量は、雪かきに取り掛かる前にもう戦意を喪失しそうだった。小さい頃は大雪が降ればかまくらが作れる、なんて浮かれた気持ちになったけど、今ではただただ厄介だとしか思えない。