「ちょっと里香、あんたまたこんなとこで寝てたの? 風邪ひくって言ってるでしょ」

 しがみついていたこたつ布団を、母にはぎ取られる。仕方なくぬくぬくのこたつから這い出ると、立て続けに二回くしゃみが出た。そら見たことかと言わんばかりに睨まれて、ごまかし気味に鼻を啜る。時計を見上げるとまだ早朝と言っていい時間で、夜更かししてテレビを見ながら寝落ちした頭はまだ半分寝ぼけていた。

 テーブルの上に散らばった白髭おじさんのチキンの残骸を、母があきれながら片付け始める。

「真夜中にこんなの食べてたの? あんた自分の年齢わかってる?」
「しょうがないじゃん、食べたかったんだもん」

 言われなくても、この年でジャンキーな油を夜中に摂取することのリスクはよく理解している。それでも、聖夜に一人で出っ歯のサンタと人の不幸を分かち合うためには、このチキンは必要不可欠なのだ。

 母の冷たい目から逃れるように洗面所に向かうと、先にそこを占領していた弟からも、全く同じ視線を向けられる。

「イブに一人ってだけでもわびしいのに、その浮腫んだ顔は最悪だな」
「やかましい」

 はたいてやろうかと思ったけど、髭剃り中だから我慢してやった。お前だって昨日は家にいただろうがと心の中で毒づきつつ、洗面所は今日も仕事の弟に譲る。二個年下の弟は、地元の国立大に進学して市役所に入るという典型的な田舎の就職パターンに乗って、いまだに実家から出たことがない立派なパラサイトシングルだ。