「クリスマスイブの夜は特別よ。早く迎えに行ってあげてくださいな」

 彼女は、里香がここから三百キロの距離にいることを知らない。それでも、ちらりと時計を確認すれば、急げばおそらくぎりぎりで間に会う時間。

「里香さんに伝えて。また二人でお茶しましょ、今度は里香さんのお気に入りの店で」
「必ず伝えます」
「スイートは私が他の人と楽しませていただくわ。精算はそちらに回すからよろしくね」

 雅さんはしたたかに微笑むと、ごきげんよう、と完璧な淑女の礼をして、ホテルに向かって歩き出した。その毅然とした後ろ姿に無言で頭を下げてから、俺は彼女とは反対方向に向かって、歩き出す。


 携帯で松原を呼び出すと、ワンコールで繋がった。


「俺だ。今どこにいる?」
『近くで待機しております。……東京駅七時五十分発の新幹線なら本日中に着けるかと』


 用意されていた答えに、思わず笑みが零れた。


 ――結局こうなる結果だったってこと、俺以外の人間はみんなわかってたんだな。


 速足から駆け足へ、足取りがどんどん軽くなる。俺はまばゆいイルミネーションに向かって走りだした。


 今度こそ自分の意思で選んだ、未来を掴み取るために。