「私も子供ができたらそんなクリスマスにしたいわ。そうね……十年後」
それから不意に腕を引かれて、少しよろける。慌てて雅さんを見ると、いつの間にかイルミネーションではなく俺のほうをじっと見ていた。
「十年後、東吾さんはどんなクリスマスを過ごしていると思う?」
「それはもちろん……」
雅さんが言うような、家族で食卓を囲むようなクリスマスを過ごしているだろう。そう言おうとして、ふっとよぎったのが、子供に囲まれて料理をする里香の横顔。……すぐに心の中で打ち消す。
「子供と一緒に、雅さんが作ったケーキを食べていると思いますよ」
「……そう」
取り繕った俺のセリフに、雅さんがうっすらと微笑んだ。
そのまま通りを進むと、やがて見覚えのある景色が見えてきた。まばゆい電飾が途切れて、街灯に照らされた沈黙した噴水だけが並ぶ並木道。正面の大きな噴水に思わず目が吸い寄せられて……。
その瞬間、並んだ噴水が一斉に水を吐き出し、水中からそれを照らし出すようにライトが灯る。
その光景と共に、どっと去年の記憶が頭の中に押し寄せてきた。
怒りながら涙を流していた里香。その顔が可愛くて愛しくて、生まれて初めて、真剣に自分の気持ちに向き合った。この女が必要だと、そばにいて欲しいとただ願って……。
