「お待たせしましたか」
近づいて謝ると、彼女は気分を害した風もなくにこりと微笑む。
「いいえ。こうやって普通に外で待ち合わせって、少し憧れてたの。楽しかったわ」
すっと腕に手を絡ませて、行きましょうかと身を寄せてくる。その身のこなしは完璧に上流階級の人間のものなのに、そうやって普通というものに憧れる、そんなところは素直にかわいいと思った。彼女にはたまにそういった無邪気さを垣間見せる時があって、普段の勝気な印象とのギャップに、微笑ましく思うことがよくあった。
雅さんは、頭取の娘という立場を差し引いても、魅力的な女性だと思う。だからこそ、また迷う。
レストランもホテルも徒歩圏内で、雅さんの希望もあって歩いて移動する。食通の彼女を連れていく店は毎回悩みどころで、今回は無難に老舗のフレンチを選んだが、概ね満足したようだった。
イルミネーションに彩られた大通りを、二人で歩く。街中はどこもかしこもカップルだらけ、浮かれた空気がそこら中に漂っていて、雅さんもその空気にのまれたか、今日はいつもより饒舌だった。
「クリスマスイブの夜って、やっぱり特別」
木々が纏う光の螺旋を、うっとりと見上げる。
「私実は、イブに男の人と過ごすのは初めてなの。いつもは家族と一緒。お父様が東吾さんだから特別って」
「それは責任重大だな。楽しんでもらわないと」
ふふ、と笑って、少し体を預けてきた。
「今ではどこかのお店に行きますけど、小さい頃は家でパーティをしたのよ。母が丸一日かけてケーキを焼くの。普段料理をしない人だから、スポンジ一つ焼くのにも時間がかかって」
奮闘する母親を応援する幼い女の子を思い浮かべて、こちらもつい口元が綻ぶ。
