最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~


 負の感情とは言え、今まで自分を形作ってきたものを引き剥がす作業は、精神的にひどく消耗するものだった。冷静に今の自分を見詰め直せとあのクソ親父は言ったけど、今の自分は過去の自分の上にあって、どうしたって切り離せない。過去の自分は間違いなく負の感情に溢れていて、思考が否応なくそちらに引きずられる。

 考えるのが嫌になると、必ず里香の姿が浮かんできた。

 仕事中の真剣な横顔、腕の中から見上げてくる甘えた目、からかった時の不貞腐れた口元。今何をしているんだろうかと、一人きりの部屋で想像して、虚しさだけが募っていく。

 もう答えは出ているような気もするのに、そこに向かって走っていくことができなかった。
 ここで走ってしまえば、今までの自分を全て否定されるような気がして。

 少しだけ目を閉じたつもりが、そのままそこで眠ってしまったようで、鳴り響く内線の音で目を覚ました。出て見れば松原で、そろそろお時間です、と控えめな声で告げられる。時計を見ると確かにそんな時刻で、こんなところでよく寝たな、と自分で自分に呆れた。

 雅さんが指定してきたのは、待ち合わせ場所としては名の知れた商業施設の正面だった。彼女はもうすでに到着していて、他にも何人かが暇そうに携帯を見たりしながら何かを待っている中で、姿勢よく立っている姿は一際目を引いた。