最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~


 大した内容でもなかった報告を切り上げ、神崎がファイルを閉じる。

「何を考えているんです?」

 秘書ではなく兄貴分の顔をして見下ろしてくる。

「……昨今の日本における異常気象について」
「今ならまだ間に合う。失ったものの大きさを実感し始めた頃でしょう」

 どいつもこいつも人の言うことなんか聞いちゃいない。俺の人生だっていうのに、自分の意見ばかり好き勝手押し付けてきやがって。

「あなたはもう、自分の役割は果たしたと思いますよ。あとは好きに生きたらいい」
「雅さんとの婚約を今更破棄にして、東京国際銀行との取引はどうなる?」
「真彦社長がなんとかするでしょう。それだけの地力はありますよ」

 放っておけと暗に言われて、こいつはそういうやつだったと思いだした。自分に関係のない事柄には徹底的に無関心。

「あなたが思っているほど、あなたの意思を阻むものなんてありませんよ。あとはあなたの気持ち次第」

 では、と一礼して部屋を出ていくふてぶてしい後ろ姿を見送って、立ち上がる。今日はなにもする気が起きなくて、応接ソファの上にだらしなく寝転がった。

 父と言い争いをした日から、幾度となく考えるけど、どうやっても自分の頭の中の整理がつかなかった。思考の合間に今まで過ごしてきた時間の記憶が断片的に蘇って、それがまた頭の中をぐちゃぐちゃにする。幼い頃の思い出、上條に拾われてからの日々、経営者として邁進した時間。向けられる大人たちの目、母さんの最期……。