昔はここを見つけてから、隠れるようにしてソファの陰に座り込み、庭を眺めるのが好きだった。ここにいれば面倒なことはなにも考えずに、ただ一人になることができた。

 陰ではなくちゃんとソファの上に座り、庭を眺める。
 技師が手入れを欠かさないこの家の庭は、広大でありながらも隅々まで作り込まれていて、どこから見ても完璧だった。母さんが摘んできていたような、雑草みたいな花なんてどこにも見当たらない。

 しばらくそこでぼんやりしていると、足音が聞こえてきた。

 使用人が掃除でもしにきたのかと思って何気なく視線を向けると、歩いてきたのは父だった。

 驚く俺の隣に、一人分のスペースを空けて腰を下ろす。
 雅さんに挨拶だけはしていたものの、後は自室に引っ込んで仕事をしていたはずだ。何をわざわざこんなところに。

 父は俺のほうを見もせず、座り込んだままじっと庭へ視線を向けていた。そこに座った意図がわからないまま無言の父に話しかける言葉も見つからず、俺も諦めて庭に視線を戻す。

 父と二人、並んで庭を見ている。仕事の話をするわけでもなく。

 こんなことは今までで初めてだった。そもそも、父は俺にほとんど関わってこなかった。話をするにも必要最低限の事務的なことばかり、父と子というよりは、主人と使用人のような関係だった。

 この空気は、何ともいたたまれない。身の置き場がなくて、用がないなら立ち去ろうと思ったところで、ようやく父が口を開いた。