最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~


 翌日、久しぶりに二日酔いというものを味わいつつ、痛む頭を押さえて残りの荷物を宅配業者に託し、鍵を不動産屋に引き渡す。手荷物だけを残し、がらんとした部屋を見渡して、ようやくここを離れるのだと実感した。就職してから住み続けた部屋は、やはり愛着もあり、最後だと思うと感慨深い。

 朝食兼ほぼ昼食を外で摂り、駅に向かう。上京した時は途方もなく広く見えた駅も、東京という街に染まっていくにつれ馴染んでいき、行きかう人の流れの速さにももう慣れた。向かってくる人にぶつかってはいちいち謝っていた、あの頃が懐かしい。

 お土産を物色しつつ時間を潰していると、携帯が鳴った。どうせ母からのなになに買ってこいとかいう要求の電話だろうと思って見ると、そこに表示されていたのは真木の二文字で。

「もしもし?」

 何事かと思って出て見ると、答えたのは切羽詰まったような真木の声。

『お前今どこ?』
「グランスタの、お菓子いっぱい売ってるとこ」
『あの鈴んとこ? ちょうどいい、そこ動くな』

 それだけ言って切れてしまった。一体何なの、と無言の携帯をしばし見つめる。

 とりあえず鈴の近くに移動して待っていると、すぐに真木が息せき切って走ってくる姿が人波の向こうから見えた。私の前まで来ると、膝に手を当てて軽く息を整える。

「……あんた、わざわざ見送りに来たの?」

 昨日の元気でね、は何だったんだと呆れて尋ねると、真木はまだ少し息が上がったまま、顔を上げた。