のんびり歩いていてもすぐに私のアパートの外壁が見えてきて、階段の前で真木と向き合う。
「真木とも。一応今日が最後だね」
「一応ってなんだよ」
「東京に遊びに来たら連絡するからさ。また一緒に飲みに行ってくれるでしょ?」
「当たり前だろ」
今の時代、連絡先さえ知っていれば、会おうと思えばいつでも会える。気の合う友人として真木は貴重だったし、時間が経てば会社の話も懐かしく聞けるだろう。
握手を求めて手を出すと、真木はその手を複雑そうにじっと見つめてから、ぱしんと音が鳴るくらい勢いよく自分の手をぶつけて、握った。
「元気でね」
「お前もな」
にやっと笑うその顔に見送られて、私は階段を登る。
「佐倉!」
登り切って共有の廊下に出た時に、下から声がかかった。身を乗り出して覗き込むと、まだそこで待っていてくれた真木がこっちを見上げている。
「何?」
叫び返すと、真木は何か一瞬躊躇ったあと、大きな声で言った。
「頑張れよ!」
「お前もな!」
さっきの真木のセリフを返すと、真木は笑って、今度こそ手を振って帰っていった。
