東吾と雅さんの婚約は、それからすぐに世間に知れることとなった。

 東京国際銀行との取引の話が正式に動き始め、わかば銀行からは撤退することが決まった。十二月の重役総会で、東京国際銀行との取引を承認させ、去年から始まっている業務改革の内容を改めて確認させる。これで狸二人に釘が刺せれば、その下で調子に乗り始めていた連中の動きも大人しくなるだろう。上の人間の不穏な動きが鳴りを潜めたことで、社内の空気も大分落ち着いてきた。


 婚約が決まってから、雅さんは東吾がいない時を見計らって、わざわざ私に会いに来た。出迎えた私に、真っすぐ向き合ってくる姿勢は、いかにも雅さんらしい。

「あなたの冷静な判断に感謝します。その決断は正しかったと必ず証明して見せるから、安心して」

 決して勝ち誇ったような態度ではなく、あくまで真摯な言い方で、東吾の相手がこの人でよかったと心から思えた。

「東吾さんの優秀な秘書として、あなたにはこれからも期待してる。どうぞよろしくね」

 そう言って差し出してきた手を、私も心を込めて握り返した。この人ならば東吾と共に、将来の上條グループをしっかりと担っていけるだろう。

 社長室内のデスクは、早々に片付けた。雅さんに気を遣ったつもりだったけど、当の本人は、あら、別に気にしないのに、と意に介さずという感じだった。それでもやはりけじめだろうと思ったし、何より東吾と同じ場所で仕事をするのは、私にとっては少し、苦痛だった。