夕日に染まる墓地は、一年前と全く同じ風景のはずなのに、そこに眠るのが東吾のお母さんだとわかっているだけで、なんだか懐かしい感じがした。
 去年と同じように東吾の後ろをついていくと、手桶を手にした東吾が空いた手を差し出してくる。私は花束を片手に抱えなおすと、その手を取った。二人、手を繋いで黙々と、墓石が並ぶ細い道を歩いていく。

 今年もすでに、お母さんのお墓はきれいに掃除してあって、花も立ててあった。

「他にも誰か、お墓参りに来る人がいるの?」

 不思議に思って尋ねると、東吾はこともなげに言ってのけた。

「松原だろ」

 驚いてうっかり花束を落としそうになる。

「えっ? 松原さんって運転手の?」
「そう。あいつ、母さんに惚れてたから」

 また驚いて、まじまじと東吾を見てしまう私に苦笑する。

「俺が上條の家に入った時からあいつは専属の運転手で、母さんの見舞いにもついてきてたんだ。一番最初に母さんを見た時に、あいつ真っ赤になってさ。絶対一目ぼれだぞ、あれ。俺にバレてないと思ってたみたいだけど、たまに一人で会いに行ってたみたいだし」

 笑いながら、ろうそくと線香に火をつける。密やかなロマンスに気を取られていた私は、慌てて花束を供えると、今年はちゃんと持参した数珠を取り出した。