「どうしてあんな死に方しなきゃいけなかったんだろう。一人で苦労して俺を育てて、それなのに病気で倒れて、なにもいいことなんてなくて、最後にようやく楽になれるって時に」

 東吾の声が小さく震えた。

「死んで当然って言われたんだ」

 ただただ抱き着く腕に力を込める。
 もう何も語って欲しくなかった。言葉を重ねるたびに東吾の心臓から血が噴き出して、全身を真っ赤に染めていくみたいだった。思い出すたびに傷つくくらいなら、そんな酷い記憶、いっそ忘れてしまえばいい。


「その時思ったんだ。
 いつかこの家を乗っ取って、破壊してやるって」


 底冷えのするような凍てついた声で、東吾が言った。
 私はぎゅっと目を瞑る。


 決定的な本心を、聞いてしまったんだと思った。


「……今でもそう思ってる?」

 そっと、微かな希望を乗せて聞いてみる。東吾は少しだけ、表情を和らげた。

「どうかな。今では立場も違うし、あの時わからなかったことも十分理解してる。完全に同じ気持ちじゃないけど」

 空の果てから自分の手へ、そっと目を伏せる。


「あの時の気持ちが今の俺を支えてるのかもしれない」