最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~


 それからおもむろに美恵子夫人が立ち上がった。すっと私の前に立ち、侮蔑を含んだまま見上げてくる。
 私よりも体が小さいはずなのに、傲岸とも言える威圧感のせいで、向き合うと覆いつくされてしまうような、恐怖に近いものを感じた。


「あの売女によく似ている」


 私には何を言われたのかよくわからなかった。
 でもその言葉を聞いた瞬間、東吾の発する空気が変わったのはわかった。


「やはり親子か。同じような女に誑かされるとは」


 美恵子夫人の目に宿る侮蔑の中に激しい怒りの火が灯る。

 息をのんだ私の顔に、美恵子夫人の手が伸びてきて、ぐっと顎を掴まれた。

「お前も身分を弁えなさい。たかが秘書ふぜいが図に乗ることは許しません」
「美恵子さんっ」

 東吾が立ち上がって、私の腕を引いて後ろへ下がらせた。そのまま庇うように美恵子夫人と私の間に立ち塞がって、少しの間睨み合った。

「……上條がその方を歓迎することは絶対にありません。二人とも、もう一度冷静に考えるように」

 そう言い捨てると、そのまま美恵子夫人は去っていった。最後まで、伸ばした背筋は真っすぐなまま。

 美恵子夫人の姿が見えなくなった途端、手が小さく震え始めた。恐怖で停止していた細胞が、ようやく息をしだしたみたいだった。

「大丈夫か?」

 震えだした私の肩を東吾の手が包んだ。無言で頷いて、そっと東吾の表情を窺う。

「ごめん」

 ぎゅっと目を閉じて謝罪の言葉を口にした東吾のほうが、私よりもよほど苦しみに満ちていた。