「あなたがこれまで生きてこれたのは誰のおかげだと思っているんです? 上條が拾っていなければあなた、母親と一緒に野垂れ死にしていたとしてもおかしくないんですよ。その母親だって、あんなに安らかに死ねたのは上條のおかげ」
「それは重々承知していますし、感謝しています」
「口先だけではなんとでも言えますからね。……まあいいです。あなたにはもう一度、ご自分の立場というものを自覚していただきたい。何のために最高の教育を与えられて、何のために上條という名を与えられたのか」
美恵子夫人が言葉を重ねるたびに、東吾の顔から表情が消えていく。全てを遮断して、自分を護るための壁を作るように。そしてその壁の中に、自分の思いも閉じ込めていくんだろう。
こんなやり取りが昔からずっと続いてきたんだったとしたら、他人に何かを求めることを諦めてしまうのも仕方がないと思う。
「今まではもっと分を弁えている方だと思っていましたけどね。今回は非常に残念です。あなたはもっと、賢いと思っていました。……こんな」
美恵子夫人が今度は私に顔を向けた。はっきりとした侮蔑の色が浮かんでいるその視線を受け止められず、目を伏せる。
「多少見栄えがいいくらいの人に何故こだわるんだか。雅さんも十分お美しいでしょう。どこが不満なんです?」
「外見の問題では」
「雅さんは全て兼ね揃えているでしょう」
