扉の前で一度呼吸を整えてから、ノックする。お茶をお持ちしました、と声をかけると、中から入れ、と東吾の声がした。
向き合う二人から漂う空気は、ピンと緊張で張りつめていた。血が繋がっていないとはいえ、一時期は同じ家で過ごしたはずの家族なのに、親愛の感情など欠片も感じられない。互いに互いを認めずに、拒否しあっているのがありありとわかる。
お茶を出したらすぐに退散しようと思っていた私に、美恵子夫人から声がかかる。
「あなたも残りなさい」
「は」
戸惑って思わず東吾のほうを見ると、東吾も微かに目をすがめて、美恵子夫人の真意を図ろうとしているように見えた。
「話を聞いていてもらったほうが手っ取り早いでしょう。東吾さん、いいですね?」
反論は許さない口調だった。東吾は少し考えた後、険しい口調で同席しろ、と言った。私は仕方なく、東吾の斜め後ろに控える。
「梶浦さんは、上條製薬ともぜひ取引を、とおっしゃってくれています」
「存じていますが」
「あなたはそれも潰す気ですか」
ひたりと注がれる視線はどこまでも冷ややかで、真っすぐ伸びた姿勢のまま微動だにしない。
「それはあくまで上條製薬と東京国際銀行との話のはず。私と雅さんの婚約とは関係ない」
「そうだったらどれほどよかったか」
はあ、とため息をついて、わずかに肩を落とす。
