退勤ラッシュで人で溢れる地下鉄に揺られて、家路につく。いつものコンビニで夜ご飯を買って、アパートまでは歩いて十分ほど。疲れた足で階段を登って、慣れた手順で部屋に入って荷物を置くと、部屋の一番いい位置に鎮座しているお気に入りのラブソファに倒れ込んだ。

 寝起きの悪い私が、駅が近く会社まで乗り換えなしで行けるという立地に拘ったため、広さを犠牲にした部屋は、一人でぼんやりする分にはいいけれど、誰かを招くには手狭だった。東吾を呼んだことも一度だけあるけれど、特に彼のような背の高い人間がいると、圧迫感が半端なかった。ラブソファに二人並んで座ると身動きが取れなくて、東吾はくっついてられるしいいじゃん、と笑っていたけど、私が嫌でそれからはずっと二人で過ごすのは東吾の家だ。

 ソファの上で膝を抱えて、もう見慣れたその部屋をぼんやりと眺める。カーテンの向こうには小さなベランダが付いているけど、東吾の家とは違って見えるのは隣のビルの壁だけだ。
 自然の息吹も人の気配も感じないこの部屋にいると、最近はなんだかもの寂しく感じることがある。ずっと一人でいて、それが当たり前だったはずなのに、東吾がそばにいる温もりに慣れてしまったら、もう一人には戻れないような気がして。

 ――俺を信じてくれ。

 東吾の声が蘇る。そしてそこに被さるように、真木の声も。

 ――社長が頑張れる環境を作るのがお前の仕事だろ。

 真木は、秘書として頑張れと、そう言っているのはもちろんわかっている。それでも、違う意味に聞こえてしまう卑屈な自分がいて。