真木がげんなりとした顔で呻いた。ずるずるとソファの上を滑り落ちて、背もたれの淵に頭を乗せて天井を仰ぐ。
「現場の俺たちにとっては社長だけが頼りなんだ。頑張ってくれよぉ」
軽い口調の中にも、真剣な思いが見て取れる。開発だけじゃなくて、他の部署の若手にとっても、東吾の存在は希望だ。
この会社だけじゃない。ここが安定すれば、東吾はいずれ上條の中枢に戻っていくだろう。こんな子会社で手こずってる暇はないのだ。東吾の手腕は、妨害なく発揮されるべき。
「そうだよね。社長には頑張ってもらわなくちゃ」
私がそう呟くと、真木は呆れたような声で言った。
「何他人事みたいに言ってんの。社長が頑張れる環境を作るのがお前の仕事だろ」
背筋を伸ばして、私に向かってびしっと人差し指を突き付ける。
「それは佐倉にしかできないよ。お前も頑張れ。期待してる」
そう言ってにっと笑うと、真木はコーヒーを一気に飲み干して去っていった。
残された私は、紙コップの底にうっすらと残る茶色の液体をぼんやりと見つめる。もう冷めきったそれを、捨てようかどうか一瞬悩んでから、口に含んだ。挽きたての香ばしさがどこかへ消えて、残ったのはただ苦さばっかりだった。
