最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~


 帰路につく前になんとなくぼんやりしたくて休憩室に寄ると、喫煙ルームの扉の向こうに難しい顔をしながら煙草をふかす真木がいた。なにかあったのだろうかと思いながらコーヒーを選んでいると、あっちも私に気付いて、喫煙ルームから出てくる。

「よう」
「お疲れ様」

 湯気の立つ紙コップを取り出して無人の休憩室の端っこのソファに陣取る。

「なにかトラブル?」
「あー、まあ、トラブルってわけじゃないんだけど」

 真木も自分のコーヒーを手に、私の隣に座った。

「ほら、西さんが社長と見に行った工場。試験的に使う話だったのがどうやら駄目そうで」

 足を組んでコーヒーを啜りながら、渋い顔でぼやく。

「最近三課からの横やりも激しいんだよなあ。一時期大人しくなってたのに、うぜえったら仕方なくて」

 そこで真木はちらりと周りを見渡すと、少し顔を寄せて潜めた声で訊いてくる。

「もしかして。そっちこそ、なんかトラブル?」

 答えてもいいか一瞬迷ったけど、真木はこう見えて口は堅い。特に言いふらすこともないだろう。実際被害を受け始めているのは事実だし、伝えておいた方がいいかもしれない。

「副社長と専務が社長に噛み付いた」
「あー。古狸二人の相手なんて考えただけでめんどくさそ」