流れを呼んで、時機を逃さず、好機と見たらすかさず獲物を仕留めに来る。ハンターの嗅覚と、それを支える情報収集力、なにより実行力。一流の経営者であるお父様から受け継いだその能力は、確かに上條の家に切り込んでいくには、必要不可欠なのかもしれない。

 その日、東吾を訪ねてきた雅さんは、私にも同席するよう告げた。最近は頻繁に私にもちょっかいをかけてくるようになったので、あまり気にせずに東吾の後ろに立ったけど。

 ソファに座るなり、雅さんは開口一番、こう言った。

「正式に、東吾さんに結婚を前提とした交際を申し込みます」

 今までも有り余る好意を示し続けてきた雅さんだけど、正式に、結婚を前提に、という話はまだ出ていなかった。もちろん将来的にはそれを見据えて話はしていたけれど、具体的には何も進んでいなかった。それが今。

「雅さん」
「今この場で断るのはやめてくださいね。これは家と家のお話でもあるんです。これから上條本家へもお伺いするつもりですから」

 東吾に向かってにっこりと、それは綺麗な微笑みを浮かべた。

「それから、会社同士のお話でもあります。姻戚関係になるからには、頭取も是非友好的にお付き合いしたいと。もちろん優秀な経営者同士としてね」
「それは、有難いお話ですが」
「御社が今お付き合いしているわかば銀行は、御社のこれからの発展を考えると、些か心許ないかと。それに、頭の中身の古びた害虫となにやら企んでいるようですし……この際、害虫ごと駆除してしまっては?」

 わかば銀行とメインで繋がっているのは川端副社長だ。何か動きがあったのだろうか、私には何も知らされていないけれど……。