最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~


「常務。どうされたんですか?」
「いや、社長の様子がね、ちょっと気になって」

 温厚そのものの常務には、以前担当させていただいている時にも、随分と励まされた。前社長ともよく気が合って、その性格から下の人間にも慕われる人だ。

「それが、少し出てくると外出されてしまいまして」

 そうか、と気遣わし気に社長の席に目をやった。東吾を本気で心配してくれているのがわかる目で、彼の味方がいることに、心底安心する。

 常務なら、東吾が表情を失くした理由を、ご存じだろうか。

「あの。差し出がましいかもしれませんが……副社長がおっしゃっていた、社長には上條を名乗る資格はない、というのは、どういう?」

 躊躇いつつ口にすると、常務は沈痛な面持ちで、ため息をつく。

「あの人も、何故ああいうことを平気で口に出せるのか。私には理解できんがね」

 それから私に向き合うと、ゆっくりと言葉を選びながら話し出す。

「あくまで上條家の事情だから、外部の人間がおいそれと語ることではないけれど。君は社長に随分信頼されているようだから……その、社長の生まれについては君は」

「美恵子夫人とは血が繋がっていないことは、本人から聞いております」

「そうか。では、真彦社長が婿養子であることは?」

「それは。存じ上げませんでした」

「上條の先代には男子が恵まれなくてね。美恵子夫人が婿を取って跡を継ぐことになった。真彦氏も親族の中から選ばれたはずだから、厳密には少しは上條の血が入っているが、まあ血縁に拘る人間には他人と同じようなものだろう」