最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~


「研究開発に力を入れるべきなのは明らかです。現場との関係を密にすることは有意義だと思いますが」
「ですがあなたは経営者ですよ。社長業をおろそかにしてもらっては困る」
「おろそかにしたつもりはありませんが」

 部屋の中に嫌な空気が漂い始めた。穏健派の前田常務がみんなの顔色を窺っているのがわかる。


「社長は自分を過信しすぎる」


 塩田専務の言葉に、さすがの東吾も少しイラっとしたように目を細めた。

「確かに君の化学的知識を見込んで真彦社長は君を我が社の社長に据えたのかもしれん。だがね、それと経営は別問題だよ。そもそも君には先人に教えを乞うという謙虚さが見られん。就任して一年半の君にわが社の何がわかるのかね?」

 MBAまで取ってきた東吾に経営の何たるかを説きたがるとは、塩田専務の苔むした自尊心にはもはや頭が下がる。確かに開発への力の注ぎようは他から比べて一線を画しているけれど、それでも他部署への目配りを欠かしてはいないし、対外的な交渉やその他もろもろの社長業も、精力的にこなしている。椅子にふんぞり返っているだけの専務に文句を言われる筋合いはない。

「去年一年でしっかり学ばせていただいたつもりですが」
「好き勝手にいじくりまわしただけだろう。会社の私物化も甚だしい」

 東吾の顔が険しくなっていく。なんとか自制しているんだろうけど、専務の言い方はあまりにもひどすぎて、爆発しないか心配になる。