お嬢様は帰る時にも、私に声をかけていった。

「あなたの言う通り、ふられちゃったわ。どうせなら今度、あなたも一緒にどうかしら。チケットは三枚用意しておくわ」

 さすがにすぐに返答できなかった私に笑って、ではまた、と颯爽と帰っていった。見送っていた東吾が、探るような目で私を見る。

「随分と仲良くなったもんだな」
「アフタヌーンティーにご招待いただいたのよ。宣戦布告付きで」
「宣戦布告?」
「東吾さんがどちらを選ぶか、正々堂々戦いましょ、ってさ」
「そりゃまた恐ろしい戦いだ」

 おどけるように肩をすくめる。それから時計を確認すると、デスクからファイルだけ持って出てきた。

「開発に顔出してくる。適当に上がっていいぞ」
「あんまり頻繁に通ってると、他部署からクレームが来ますよ」
「わかってる」

 人の忠告を聞いているんだかどうなのか、ひらひら手を振って出ていった。あの感じだと最終的に、また開発メンバーを引き連れて飲みの席に流れ込みそうだ。もしかしたら私の一番のライバルは真木かもしれない、とちょっと思った。


 そしてその頃から、問題の種は密やかに、でも確実に、育っていたんじゃないかと思う。