二人でいると仕事の話になりがちだけど、今日は違う話をするために来たのだ。東吾の手から書類を引き抜いてテーブルに置き、改めて東吾に向かって座りなおすと、彼も沈み込んでいた体を起こして背筋を伸ばす。

「あのね。私もちゃんと、伝えておこうと思って」
「……何?」

 東吾が少し、緊張するのがわかった。私もなんだかその緊張が移って、二人して硬い空気に包まれる。これじゃいかんと深呼吸すると、東吾が少し、笑った。


「私も、結婚するなら東吾とがいい」


 今度は驚いたように軽く目を見開いた。
 それを見て、私も少し、笑った。

「正直、社長夫人とか何すればいいかわからないし、上條家のしきたりとかもわからないし、いろいろ想像できないことばっかりなんだけど。でも、一緒に生活したり子供を育てたり年を取ったりして、おばあちゃんになった時に隣にいるのは、東吾であって欲しいな、って思う」

 まだ、東吾の隣にパートナーとして立つことに、全然自信は持てないけれど。でも、逃げないでちゃんと努力したい、相応しくなれるように頑張りたい、と思う。

「それで充分」

 東吾がふんわりと笑って、私を抱き寄せた。

「面倒なことも、たくさんあると思う。やっぱり里香に頑張ってもらうしかないことも、多いと思うけど。でも、全力で助ける。俺が隣にいるから」

 耳元で囁く声は、とても優しくて、でも決意を感じさせる強さも含んでいた。

「ありがとう。……一緒に生きていこう」
「うん」

 この人の隣にいれば、きっとなにがあっても大丈夫。辛いことがあっても、二人で乗り越えていける。

 体を起こしてじっと東吾の切れ長の目を見上げる。それから目を閉じると、すぐに柔らかくて幸せな感触が唇の上に降ってきた。