上着を羽織っているのに、やっぱり外はひんやりと寒い。

秋ももう終わっていくんだわ。

寒い冬。誰かのぬくもりを感じていたい冬がもうすぐやってくる。

両腕で寒さで震える自分の体を抱えると、少し前屈みになって駅へ急いだ。

電車を乗り継ぎ自分の家のある駅につくと、急ぎ足で改札を出る。

その時、「和桜」という声が後ろから聞こえた。

振り返ると、駅前のロータリーに停まった一台の車の前に醍が立っていた。

長身の彼には年齢のわりに大人びたダークグレーのロングコートがよく似合っている。

醍は私と目が合うと安心したような顔で微笑み、柔らかい前髪を掻き上げ言った。

「おかえり」

その声に泣きそうになる。

「ただいま」

私は小さく呟くと開けられた彼の助手席に座った。

運転席の扉がパタンと閉まり、車は音もなく動き出す。

夜の住宅街は人気もなく、昼間と違って薄暗くて心細い。

自分の膝の上で両手をぎゅっと握り締めた。

「会うの久しぶりだね」

そう言いながら、彼はハンドルの前に置いてあったサングラスをかける。

「サングラス?」

思わず尋ねる。だって、サングラスかけてる醍は初めてみたから。

彼はふっと口もとを緩めて言った。

「別に瞼が腫れてるわけじゃないけどね」

「そのことは忘れて」

あの日の自分のサングラスを思い出して瞼にそっと手をやる。

「最近、マスコミがうるさいんだ。だからちょっとした変装」

「マスコミ?」

そうか。

さっきの植村さんの話だ。

すっかりこの一ヶ月で有名人になってしまった吉丸醍。

「聞いたわ。随分有名人になったみたいね」

静かに息を吐いた。