「新しい友禅の形を見つけるためにパリに渡るんだって書いてるわよ。最近、あまりにイケメンだから雑誌のモデルやったりしてるじゃない。こないだはニュース番組でゲスト出演もしてたのに」

そんなに、今彼は話題の人なの?

私の知らない場所で。

すーっと彼の面影が遠ざかっていく。

それでなくても最近会えなくて彼の熱くてなめらかな肌の温もりすら薄らいでいたのに。

スマホの画面の中で微笑む彼の顔を見つめながら、ため息が漏れる。

やっぱり私には到底。

その続きは言わなくても十分過ぎるくらいわかっていた。きっともう随分前から。

今さら口に出して言うことすら申し訳ないような気がする。

醍にとって私はふさわしい相手じゃないし、これから世界に羽ばたくような吉丸家の御曹司なんかが私を相手にしていること自体がおかしい。

きっと今までのことは夢だった。

彼のキスも彼が私を抱きしめる腕も、恋のトラウマを抱える私の心を少しだけ解き放す神様のプレゼント。

神様なんていないって思ってた私に神様はちゃんといるんだよっていう。

「どうしたの?和桜ちゃん。急に元気なくなってない?」

植村さんが心配そうな顔で私をのぞき込む。

「ええ、ちょっとびっくりしたんです。知り合いの彼がそんな有名人だったなんて」

私はほんの少しだけ微笑むと残り僅かのジョッキを空けた。