「まずは僕からビッグネーム達にこのコンセプトをすぐに連絡しておくから。君たちは一般公募を一斉に始めてくれ」

「はい!」

全員が一斉に返事をした。

チームで何かを作り上げるって、なんてすばらしいんだろう。

ワクワクして、自分が生きてるっていう実感が満ちてくる。

きっと醍も新しい何かを新しいメンバー達と生み出していくんだ。

私もがんばらなくちゃ。

この場所で、このメンバー達と。

自分の絵、ダメもとで出してみようかな。

ひょっとしたら、TUYUKUSAさんの隣に自分の絵が飾られるかもしれない。

そんなことを想像するだけで胸が躍った。

会議は無事終了し、まほろば編集部の皆は帰っていった。

「いよいよ起動するわね」

「はい」

編集部の皆を見送りながら植村さんが言った。

「絶対成功させるわよ。第一弾よりも第二弾の方がよかったって皆に認めてもらえるように」

そして、袖を捲り上げるとニヤッと笑いながら私に顔を向ける。

「今日、景気付けに久しぶりに一杯どう?」

最近、飲みになんか行ってなかったなぁ。

「ええ、もちろん」

私もニヤッと笑いながら答えた。


美術館の最寄り駅前に小さな行きつけの居酒屋がある。

植村さんは店主と仲良しで、いつもサービスで色々と旬のものを出してもらっていた。

「おっ、久しぶりのお二人さん」

厨房カウンターから店主が浅黒くて丸い顔にたくさんの皺を刻んで笑った。

カウンター席は10人掛けでいつも金曜の夜はいっぱいになる。

今日は少し早いからか丁度二人分の席が用意されたかのように空いていた。

カウンターの後ろにも4人掛けのテーブルが二つあるけれど、既にテーブル席は埋まっている。

生中で乾杯すると、店主が「どうぞ」と言って目の前に置いたのはサンマの刺身。

「これ、新物だよ。脂のっててうまいぞ」

手ぬぐいで手を拭きながら店主が自慢げな顔をした。

「店主が言うなら間違いないわね。早速いただきます」

植村さんは醤油に刺身をくぐらせると口に入れた。

「わー、口の中で溶ける溶ける-」

頬に手を当てて、うっとりとした目をした彼女に笑いながら私も口に入れる。

ほんとだ。

久しぶりに食べるサンマのお刺身だったけれど、こんなに脂にのったお刺身は初めて。