「あ、ぼーっとしてごめんなさい。パリって私が想像してた以上に遠くて、それにしばらく会えなくなるんだなって。頭の中を整理してたの」

醍はふっと視線を落として寂しそうに微笑む。

「遠いよね、パリは」

私は何も言わず彼の呟きに頷く。

そして、自分の気持ちを押さえ込むと敢えて明るく尋ねた。

「パリにはいつ発つの?」

「そうだな……親父から一応許可も得たし遅くとも一ヶ月以内には発ちたいと思ってる」

「一ヶ月、か。そんなすぐに行っちゃうのね」

醍の視線が上がり再び私を捕らえる。

「出発まで、少しでも時間ができたら和桜に必ず会いに来る」

まっすぐな彼の瞳は眩しすぎて、じっと見続けることができない。それは、私の自分本意な気持ちと醍の揺るぎない未来に向けた思いの強さに縮められない距離を感じたからかもしれない。

私はうつむくと、少しだけ微笑み頷いた。

「ありがとう」

彼の存在は遠くに離れたって消えないものだけど、すぐそばにいるのといないのではやっぱり違う。

どんなに強く思ったとしても会えない時間は、お互いの存在を記憶から薄めていくんだ。

だけど、離れていく彼をここに留めることはできない。

私はそっと彼の体に腕を巻き付けて目を閉じ、その体温を感じながら眠った。

その翌朝早く、醍は自分の家に戻っていった。「またすぐ会いに来るよ」と言って。