お互い何も言わずただ見つめ合う。その瞳の奧のそれぞれの気持ちを探るかのように。

ここで何かを言ったら泣いてしまいそうだった。

醍と出会い、愛されることの幸せを再び感じることができたばかりだというのに。

パリって言う言葉で一気にしぼんでいく自分の気持ちを、彼にこのままぶつけてしまったら、きっとこれからの醍の未来を摘んでしまうことになる。

下唇をきゅっと咬んでうつむいた。

醍は体を起こすと、私を静かにその胸に抱き寄せる。

彼の温かい体温が私の冷えた体を包み込み、まるで子供を諭すようにゆっくりと優しく話し始めた。

「パリの知り合いに頼んで事務所を借りれそうなんだ。それにこの製作にはフランスで発注するものがたくさんあるし、パリに住む古くからの知り合いの協力も必要なんだよ」

彼の体温をしっかり感じたくて背中に腕を回す。

「これから俺がやろうとしていることは、パリに渡って本格的にオートクチュールやビーズについて知識を増やす必要がある。だから日本での製作となると費用も時間もかかりすぎてしまうんだ。俺はこの製作にかけてる。親父を納得させるためには半端な気持ちじゃ無理なんだ」

醍の言葉一つ一つに熱がこもっていた。それだけの覚悟と思いが溢れている。

きっと誰も止められない。

「パリにはどれくらい滞在するの?」

「俺にとっては初めてのことだから短くても半年以上はかかるかもしれない」

そんなにも?

っていうことはその間、ずっと醍と会えないってことだ。

そんなにも長い時間彼と会えないことに私は堪えられるんだろうか?

半年後、例え彼が成功したとしても、そのままパリに残るなんてことはないのだろうか。

聞きたくても聞けない気持ちが胸の奥からどんどん溢れてくる。

「和桜?」

彼の心配そうな目が私の顔を覗き込む。